本書『幸福の智恵 クタドゥグ・ビリグ』の題名について、解説させていただきます。

前回のブログ、智恵と知識についてで著者ユースフが考える智恵と知識の違いを紹介いたしました。そこで智恵は生まれながらにしてその人にそなわる先天的なものであり、知識は生まれてその人が努力によって学んでいく後天的なものだと説明いたしました。

ところでテュルク語では、智恵は”Ukuş”、知識は”Bilig”と発音されます。

『幸福の智恵 クタドゥグ・ビリグ』はテュルク語で表記すると”Qutadğu Bilig”となります。実はこれを直訳すると『幸福になるための知識』となります。本来このように訳すべきかもしれませんが、わたしが参照にした中国語版クタドゥグ・ビリグが『福乐智慧』の題名を持ち、ビリグが「智慧」とされていること、補訂に使ったロバート・ダンコフの英語版でも「Wisdom of Royal Glory」と、「ビリグ」を「智恵」に近い「Wisdom 」を訳しています。学者の中でも題名の「ビリグ」の訳は、「知識」と「智恵」が統一されておりません。


ユースフは本書の中で、言葉の違いについて明確に述べていますが、文中の表現では、智恵と知識は曖昧に使用されています。カラ・ハーン朝テュルク語の専門である東京外語大学の菅原睦教授すら『クタドゥグ・ビリグ』の中での「実際の用例ではその差異は判然としない」と述べられています。

そのため題名については大変悩みましたが、最終的に英語版、中国語版に倣い『幸福の智恵』で日本語訳の題名といたしました。